第3学年 算数科学習指導案

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 日 時 平成11年2月1日(月)

 対 象 甲府市立大里小学校 第3学年

 授業者 山梨大学教育人間科学部  中 村 享 史

 

1.計算指導で大切にしたいこと

計算指導で大切にしたいことは、計算の仕方をつくり出すことであると私は考えている。なぜならば、算数は、創造的に学習に取り組む姿勢を育てる教科であり、計算指導では、既習事項をもとにつく出すことができるからである。

 一方、計算指導において、計算の形式を覚えることや速く計算できることが大切あるという主張もある。これは、「できる」ことに重点を置いた指導である。私は、その立場をとらない。計算が「できる」ことに越したことはない。しかし、それ以上に計算を「つくる」楽しさを子どもの味わってほしいと考えているからである。日常生活では、電卓が普及している。計算の答えを求めるだけなら、電卓を使えば簡単に求められる。小学校の子どもたちに経験してほしいことは、計算の仕方をつくり出すことであり、計算を工夫して行うことである。

 「つくり出す」とは、子どもがこれまでに学習した内容や方法、そして、見方・考え方を根拠にして、未知の問題に取り組み、解決していくことである。

 2位数のかけ算は計算の仕方をつくり出すことができる単元であると考えている。それは、かけ算九九を学習する中でかけ算のきまりや性質を子どもたちが見つけているからである。そこで、ここでは筆算の仕方を形式的に覚えるのではなく、いろいろな方法を用いることで、算数を楽しむことを味わわせたいと考えている。

2.2位数のかけ算をつくり出す根拠

2位数をかける計算の仕方をつくり出すための根拠は、「計算のきまり」と「数直線」である。この「かけ算のきまり」と「数直線」について詳しく述べる。

2.1 かけ算のきまりの活用

 かける数が2位数になったときの計算の仕方は、既習のかけ算やかけ算のきまりを根拠にして、子どもがつくり出すことができると私は考えている。

 ここで用いるかけ算のきまりは、次の3つである。

(ア)かける数を2つの数の和に分けて計算しても、答えは変わらない。

(イ)かける数を2つの数の積に分けて計算しても、答えは変わらない。

 (ウ)かけられる数を2倍して、かける数を2で割っても積は変わらない。

 子どもたちは、このようなかけ算のきまりを言葉で表現するわけではない。具体的な数値を計算する中で、これらのきまりを意識している。だから、計算をつくり出すとき、言葉でかけ算のきまりを言わせることはさほど必要ではない。

 これらのかけ算のきまりを用いると、25×12の計算は、次のようにして答えを求めることができる。

@25×12=25×(10+2)=25×10+25×2=250+50=300

A25×12=25×(4×3)=(25×4)×3=100×3=300

B25×12=(25×2)×(12÷2)=50×6=300

 @の方法は、(ア)のきまりを用いている。これは、かける数の12を2数の和としてみていることである。ここでは、12を10と2に分けているが、他の分け方もある。かける数を1位数に限定するなら、9と3,8と4,7と5、6と6などがある。これは、既習の10や1位数をかける計算で解決することができる。

 この方法のよさは、筆算の考えに通じることである。かける数を一の位と十の位の数に分けて、それぞれをかけるという手続きは、筆算の手続きと同じである。その意味では、この方法が一般性がある方法といえる。

Aの方法は、(イ)のきまりを用いている。これは、かける数の12を2数の積としてみていることである。12=4×3とすることで、4倍して、その積を3倍するという手続きになる。同様な方法では、25×3×4、25×2×6、25×6×2などがある。これらによって、2位数×1位数、3位数×1位数の計算で答えを求めることができる。

 この方法のよさは、かけ算だけで答えを求めることができることである。また、数値によっては、簡単な暗算でできる場合がある。一方で、どんな数値にも適用できる方法ではない。かける数が13の場合、2数の積としてみると、13×1しかない。あえて13を2×5+2とみることは、かえって計算手続きが複雑になる。

 Bの方法は、(ウ)のきまりを用いている。この方法は、「2倍して、2で割る」という手続きになる。この他にも、かける数が12の場合は、「3倍して、3で割る」「4倍して、4で割る」「6倍して、6で割る」ということになる。

 この方法は、小数や分数のかけ算において計算の仕方をつくり出す時に有効に働く。「10倍(分母倍)して、10(分母の数)で割る」ということである。その意味で、本単元において子どもから見つけさせたいきまりである。

2.2 数直線の活用

かけ算の構造を表したものに数直線がある。数直線は、文章問題の数値の関係を明らかにすることや計算の仕方を導き出すことができるものである。また、かけ算だけでなく逆演算としてのわり算との関係も数直線から読みとることができる。したがって、小学校のかけ算・わり算の指導では、積極的に数直線を用いたいと考えている。

 例えば、「2mが50円のリボン、12mの値段はいくらか」という問題を表す数直線は下のようになる。

この数直線から、2、12、50、□の関係が分かる。そして、12mの値段を求めるには、「長さが2mから12mと6倍になったので、値段も50円の6倍になる」ということで、50×6という式を立てることができる。

 数直線には、いろいろな数を表すことができる。上の数直線では、2m、12mが見えているが、その他にもいろいろな数値が数直線上に表すことができる。具体的には、次のように表すことができる。

 これは、1mが25円(50÷2)、4mが100円(50×2)ということが分かる。このように様々な計算をすることで、それぞれのリボンの長さに対応するそれぞれの値段を求めることができる。

 さらに、計算の仕方もこの数直線から導くことができる。例えば、25×12の計算は、2番目の数直線に表されている数値の関係から求めることができる。「25を4倍して、それを3倍する」と考えると25×4×3という式で表すことができる。また、「6倍して、それを2倍する」という場合は、25×6×2と式で表すことができる。

3.計算の仕方をつくり出す中で生まれる問い

計算の仕方をつくり出すとき、大切な問いは次の4つであると私は考えている。

 @根拠は何かを問う(根拠)

 A他の方法ができないかを問う(多様性)

 B共通することは何かを問う(共通性)

 Cいつでもできるかを問う(一般性)

「根拠を問う」ことは、計算の仕方を考えるときどんな既習事項を用いているかを問うことである。この問いには、未習と既習を峻別するという意識が含まれてる。この問いによって、2位数をかける計算の仕方をつくり出すとき、使ったかけ算のきまりは何か、どのような既習計算を用いているかを明らかにしたいという態度が培われる。

 「多様性を問う」ことは、個人の中で生まれると同時に、学級集団で計算方法を検討するときに生まれるものである。個人の中では、一つの方法ではなく、もっといい方法がないだろうかというよりよい方向を追求する姿勢になる。また、学級集団では、自分の方法だけでなく、他の人との方法も知りたい、自分とどこが違っている方法なのかを知りたいという姿勢になる。2位数をかける計算では、「2数を和としてみる方法」だけでなく、「2数を積としてみる方法」もこの問いによって考え出される。また、それぞれの方法も1種類だけでなく何種類ものやり方が出てくることにつながる。

「共通性を問う」も「多様性を問う」と同様に個人と集団の中で有効な問いである。いろいろな方法が出てきたときは、それを別々の物としてみるのではなく、「同じとしてみられないか」「共通することは何か」などとみる態度が大切である。2位数をかける計算の仕方では、具体的な数値からきまりを見つけたり、似ている方法を分類したりすることが、この問いによって出てくる。

「一般性を問う」は、計算方法がある程度分かった段階で、「他の数値でもできるか」を検討する姿勢につながる。その数値だからたまたまできたのか、それとも他の数値でもうまくできるのかを見極める姿勢が大切である。この問いによって、次への課題を生み出すきっかけとなることもある。

4.単元の計画

 4.1 単元名  かけ算A

 4.2 単元の目標

(関心・意欲・態度)

・2位数をかける計算を既習事項を用いて考えようとする。

 ・これまでに用いたかけ算のきまりや数直線を使おうとする。

 ・かけ算の筆算形式のよさに気づく。

(数学的な考え方)

・かけ算のきまりを用いて、計算の仕方をつくり出す。

 ・数値によって、計算の仕方を工夫する。

・計算手続きを明らかにして、筆算形式をつくる。

(表現・処理)

・2位数をかける計算を工夫して答えを求めることができる。

 ・筆算で、2位数をかける計算ができる。

(知識・理解)

・2位数をかける計算の意味や計算の仕方が分かる。

・2、3位数に2位数をかける筆算形式の原理や手順が分かる。

 4.3 単元の指導計画 <全8時間>

 第1・2時 2位数×2位数の計算の仕方  <本時 1/2>

 第3時 2位数×何十、何百の計算の仕方

 第4・5時 2位数×2位数の筆算形式の原理と手順

 第6時 3位数×2位数の筆算形式の手順

 第7時 計算の工夫

  第8時 技能練習と習熟

5.本時の展開

5.1 本時の目標

(関心・意欲・態度)

・2位数をかける計算を既習の九九や1位数のかけ算を用いて考えようとする。

 ・これまでに用いたかけ算のきまりや数直線を使おうとする。

(数学的な考え方)

・既習事項やかけ算のきまりを用いて、計算の仕方をつくり出す。

(表現・処理)

 ・数直線に数量の関係を表すことができる。

・2位数をかける計算を数値に着目して答えを求めることができる。

(知識・理解)

・2位数をかける計算の意味や計算の仕方が分かる。

 5.2 教材の特徴

本時で用いる教材には、次の特徴がある。

 @1あたりの大きさを示さない。

 A新しい課題が生まれる。

 B2数の積としてみることができる数値を用いる。

この特徴について詳しく述べる。

 本時の導入問題は、次のものである。

 「2mが50円のリボンがあります。このリボンを12m買いました。値段はいくらになりますか」

この問題は1mあたりの値段を出していない。一般的なかけ算の問題は「1mが25円のリボンがあります。このリボン12mの値段はいくらですか」である。1mの値段を出してない理由は、かけ算の意味の明確化と解決の多様性を意図しているからである。

 かけ算の意味は、(1あたりの大きさ)×(倍)である。ところが、子どもはこのかけ算の意味を意識しない場合が多い。問題文に出てくる数値を単純にかければいいと考えていることもある。時には、(値段)×(長さ)=(値段)と考えている場合もある。そこで、1あたりの大きさを出さないことによって、かけ算とは何かを子どもに意識させることができると考えている。

 この問題の解決仕方は2通りある。一つは、「長さが何倍かを求める方法」である。そして、もう一つは「1mの値段を求める方法」である。

 「長さが何倍かを求める方法」は、リボンの長さが2mと12mということから、長さが6倍になっていることが分かる。そこで、値段も6倍になると考えて、50×6と立式する。この考えは、長さと値段の間の比例関係が背景にある。このことからかけ算の意味も明らかになる。

「1mの値段を求める方法」は、2mが50円なので50÷2=25より1mが25円であることが分かる。そこで、12mの値段を求めるとき、長さが12倍になっているので値段も12倍と考えて、25×12と立式する。この立式も比例関係を背景にしていることが分かる。

 2通りの解決方法が生まれるよさは、計算の仕方をつくり出すことにつながることである。「長さが何倍かを求める方法」は、既習計算だけでできる。すなわち、50×6=300と求めることができる。そこで、12mの値段は300円であるということが分かる。一方、「1mの値段を求める方法」は、25×12が未習である。しかし、もう一つの方法で300円になることが分かっているので、25×12=300になるだろうと予想することができる。

 「25×12の計算の仕方を今まで学習してきたことを使って求めよう」という新しい課題が生まれる。つまり、問題から新しい課題が発生することである。

 ここで用いた25×12は、多様な解決方法が生まれる数値である。かける数の12を「2数の和としてみる」だけでなく、「2数の積としてみる」こともできる。そこから、様々な解決方法が生まれてくる。

これらの解決方法を検討する中でさらに新しい問いが生まれる。すなわち、かける数が12でなく、他の数でも同じような計算の仕方でできるのかという一般性を検討する新しい問いである。このように授業の中に、問題、課題、問いが連続し、学習が発展する過程が明らかになる。

5.3 本時の展開

 5.4 本時の評価

・数直線から2位数をかけるかけ算の立式ができたかを授業での子どもの解決の仕方からみる。(知・表)

 ・2位数をかける計算の仕方を、かけ算のきまりを用いて自ら考えることができたかをノート記述や授業での様子からみる。 (関・考)

・それぞれの解決方法のよさに気づき、自分の考えを持てたかを学習感想などの記述から読み取る。(関・考)

 

6.参考文献

杉山吉茂「公理的方法に基づく算数・数学の学習指導」東洋館出版 1986

 杉山吉茂「力がつく算数科教材研究」明治図書 1990

 杉山吉茂「少なく教えて多くを学ぶ算数指導」明治図書 1997

 中村享史「考える力をのばす教材」国土社 1991

中村享史「自ら問う力を育てる算数授業」明治図書 1993

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