2 専門科目の化学実験
無機・分析化学実験、有機化学実験、物理化学実験を行う場合についても先に述べた 1.1 と 1.2 中の各事項に留意する。実験中の注意については、1.2 の他に以下の点にも十分注意する。
2.1 ガラス細工について
(1) ガラス細工は指定された場所で行い、細工時には火傷や切り傷に十分注意する。特に一度加熱したガラスはなかなか冷めにくく、加熱した部分をうっかり持ってしまうことによる火傷が例年多発している。
(2) やすりで切っただけのガラス管の両端は手を切りやすいので、バーナーで加熱して丸めておく。
(3) ガラス管をゴム栓やコルク栓に通すときは、栓に近い部分を持ち回しながら押し込む(栓に入りにくいときは、栓に水をつけるとよい)。軍手をはめるかタオルを当てて行うとより安全である。ガラス管の栓から遠い部分を持って押し込もうとすると、ガラス管が折れて大けがをすることが少なくない。
ガラス管を用いてL字管、U字管、T字管、などを作製する場合は、それらの細工法について参考書を読むなどして十分理解してから行う。
2.2 試薬類について
(1) 強酸化性物質(消防法、第一類)である過酸化水素などは加熱・衝撃や金属との接触などで爆発する。したがって火気・熱源から遠ざけて冷暗所に保管し衝撃を与えないようにする。
(2) 有機薬品のうち、特に引火性・発火性の危険物に対しては火災を起こさぬよう取り扱いには十分な注意が必要である。
・エーテル……沸点が34.5℃と低く引火性が強い(消防法、特殊引火物)。極めて引火しやすいので、使用時は近くの裸火を消す。裸火が遠くにあっても、爆発限界が広いので通風をよくし蒸気が滞留しないようにする。特に試薬瓶を開けるときや分液ロートで抽出操作を行うときには蒸気が発生するので火気には十分注意する。また蒸留時にエーテルが留出するときは留出口と裸火が同一の高さにならないようにする。
・高度引火性物質……引火点が約20℃以下であり室温で引火性が高いもの(消防法、第一石油類)。石油エーテル、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、アセトンなど。エーテルほどではないが引火性が強いので、使用時には近傍の火気には十分注意する。
・中度引火性物質……引火点が20℃〜70℃のもの(消防法、第二石油類と第三石油類)。灯油、スチレン、シクロヘキサノール、ギ酸、酢酸、ニトロベンゼン、アニリンなど。加温時に引火しやすく、蒸留時などには蒸気が滞留しないように換気して通風する。
・低度引火性物質……引火点が70℃以上のもの(消防法、第四石油類と動植物油)。高温に加熱すると分解し引火しやすいガスを発生する。また加熱時に水などの異物が混入すると突沸して熱液が飛散し引火する。したがって加熱するときには白煙が発生するまで高温にしないこと、また水などの異物を混入させないこと。なお低度引火性物質は引火すると液温が高くなり消火が困難であることを認識しておく。
・含ハロゲン有機溶媒……ハロゲン元素(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)を含む有機化合物。クロロホルム、四塩化炭素、ウイス液など。これらはそれ自身あるいは分解生成物が大気中のオゾン層の破壊や温室効果といった地球環境に影響を与えるばかりか、発癌性など人体にも有毒である。そのため使用量を低くおさえるとともにこれらを含む廃液は「含ハロゲン廃液」と示された容器に捨てる。
(3) 強酸性物質(消防法、第六類)である濃硝酸、発煙硝酸、無水硫酸、濃硫酸、発煙硫酸などは有機物と混合すると発熱発火することがある。たとえばこれらの酸が着衣や布にかかり発火した例は多い。皮膚に付着するとやけどするので、そうした場合は大量の水で洗う。強酸性物質は強塩基性試薬(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの濃厚溶液など)とできる限り離して置く。
(4) 低温着火性物質(消防法、第二類)である金属粉は加熱すると発火するので、火気や熱源から遠ざけて用いる。空気中で加熱すると激しく燃焼するので注意する。
(5) 試薬のラベルに赤地に白で「医薬用外毒物」の表示がある試薬は「毒物および劇物取締法」で規制されている毒物である。また試薬のラベルに白地に赤で「医薬用外劇物」の表示がある試薬は「毒物および劇物取締法」で規制されている劇物である。医薬用外毒物で専門科目の化学実験、環境化学実験で扱うものは温度計に用いられている水銀および定性分析で扱う硝酸水銀などであるが、医薬用外劇物は多く扱う。たとえば塩酸、硝酸、硫酸、過酸化水素、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、クロム酸カリウム、シュウ酸、メタノール、四塩化炭素、クロロホルム、トルエン、フェノール、ピクリン酸、ホルマリンなどはすべて医薬用外劇物である。これらの毒物および劇物は人間の体の局部に対して強烈に作用するか、あるいは体内に吸収されて諸器官に作用するもので、その毒作用には以下の4つがある。
・接触した局部の細胞に作用して、凝固や崩壊を起こす。(硫酸、硝酸、塩酸、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)
・体内に吸収されて生活細胞の原形質を侵し、諸器官に脂肪変性を起こさせる。(鉛化合物など)
・血色素を溶解したりして酸素の供給を妨げてしまう。(青酸カリなど)
・体内に吸収されて中枢神経と心臓を侵す。(メタノール、クロロホルムなど)
したがってこれらの毒物および劇物を扱う場合は直接体に触れたり、吸入したりしないように十分に注意する。
(6) その他の試薬についても毒性や危険性を試薬のラベル、注意書、便覧などを見てあらかじめ調べてから用いる。
2.3 高圧ガス容器(ボンベ)について
(1) 高圧ガス取締り法により規制されておりボンベ容器の塗色と文字の色は下に示すとおりである。
| 高圧ガスの種類 |
ボンベの色 |
ボンベに書かれている文字 |
| 酸素ガス |
黒 |
白で「酸素」 |
| 水素ガス |
赤 |
白で「水素」と「燃」 |
| 液化炭酸ガス |
緑 |
白で「液化炭酸ガス」 |
| 液化アンモニアガス |
白 |
赤で「液化アンモニア」と「燃」、黒で「毒」 |
| 液化塩素ガス |
黄 |
白で「液化塩素ガス」、黒で「毒」 |
| アセチレンガス |
褐 |
白で「アセチレン」と「燃」 |
| 可燃性ガス |
ねずみ |
赤で「ガスの名称」と「燃」 |
| 可燃性・毒性ガス |
ねずみ |
赤で「ガスの名称」と「燃」、黒で「毒」 |
| 毒性ガス |
ねずみ |
白で「ガスの名称」、黒で「毒」 |
| その他のガス |
ねずみ |
白で「ガスの名称」 |
(2) ボンベの開閉弁は可燃性のガスおよびヘリウムが左ネジ、その他のガスが右ネジである。
(3) 調整器はそれぞれ専用のものを使用し、他のガス用のものを転用しない。水素用のものは左ネジ、酸素用のものは右ネジになっており、誤って共用して事故が起きないようにしている。
(4) ガスの性質については使用前によく理解しておく。「燃」と書かれたボンベのガスは可燃性、「毒」と書かれたガスは毒性の強いものである。特に水素ガスは爆発の危険性もあるので使用中は火気厳禁である。また酸素ガスは油脂類に触れるだけで酸化発熱し燃焼・爆発に至る危険性があるので二次弁には「禁油」と書かれたものを、ガスと接触する部分には不燃性のパッキングを行う。
(5) 高圧ガスを使用する前後は二次弁や容器弁が閉まっていることを確認する。
2.4 装置におけるその他の注意事項
実験に使用する各種の測定装置については取扱説明書を熟読して十分に理解してから使用することはもちろん、教員の説明も使用前によく聞いてから使用する。一例として以下にいくつかの装置について注意すべき点を記す。
(1) 恒温水槽、恒温油浴、電熱式ウォーターバスなど……電気プラグをコンセントに差し込むと同時にヒーターが作動するので、必ず水などの熱媒体を浴に入れてから電源を入れる(空だき防止)。感電する恐れがあるので浴の水の中に手などを入れないこと。装置はアースしておくことが望ましい。
(2) エバポレーター……使用時は装置内が減圧になっているので、装置を停止するときは、逆流しないように操作手順をよく考えてから停止する。
(3) 真空ポンプ、攪拌器など……回転部分やベルトなどに体が触れないよう十分に注意する。攪拌棒を用いて攪拌するときは、使用中に棒が外れてもガラス器具を壊さないように安全措置を講じておく。
2.5 その他の注意事項
実験中の注意事項については 1.2 の注意事項の他に以下の点にも留意する。
(1) 酸の蒸気や有毒ガスが発生する実験は必ずドラフト内で行う。ドラフト内で行うことができない場合は、実験室内を十分に換気しながら行う。
(2) 蒸留操作を行う場合は、試料は蒸留に使用するフラスコの内容積の半分以上入れてはならない。
試料溶液を構成している各物質の沸点、分解点をあらかじめ調査あるいは予想しておく。留出温度が150℃以下のときは冷却管に水を通し、それ以上のときは冷却管の水を抜く(空気冷却管を用いる)。再度、蒸留をおこなうときは沸石を新たに加える。乾固するまで蒸留しない。特に過酸化物が濃縮されると爆発の危険のあるもの(長期保存したエーテル類、過酸化物、ニトロ化合物など)は注意が必要である。
以上、ここに記した注意はほんの一例であり、これら以外にもそれぞれの専門の化学実験における注意事項がある。実験を開始する前、また実験中の担当教員や助手の注意事項も各自遵守する。
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