FDに期待すること

学部長  井上 範夫

 私たちの学部に、FDワーキンググループが発足して一年が経ちました。ワーキングの方々には、「初任者懇談会」「授業研修会」の企画立案、準備、実施と反省会、また一方で啓発、推進のための機関紙「FD INVITATION」の創刊、定期的発行と、力を尽くしてきて頂きました。本当に感謝の念にたえません。

 学部に着任された初任者の方たちには「初任者懇談会」の意義を充分に理解して頂いているようですし、「授業研修会」の企画は途切れることなく次々に実行に移され、また「FD INVITATION」も順調に号を重ねてきており、大変心強く思われます。しかし毎回の「授業研修会」に参加して下さる、一般の教官の方の数が伸び悩んでいることに象徴されますように、FDに対する学部構成員全体の理解、協力というものは、まだまだ充分とは申せません。

 FDとは、教育活動の充実、即ち学生(の実情)に即した適切な教育的対応、指導を如何に図っていくか、という問題であり、根底にあるのは学生との意思疎通に立脚した教育ということに他ならないでしょう。人類の遺産たる文化的営みの蓄積を、大きく変貌し続ける現代社会の中で新しいライフスタイルとともに生きている現代の青年たち、次世代に如何に伝えていくか、このことはこれからの日本社会の構築にとって極めて重要な課題であり、大学教育に於いて工夫努力が求められると思います。私たちの学部としても、今後さらに授業方法改善のための共同研究、新しい教育プログラムの導入、カリキュラムや指導体制の改善等、様々な取り組みを検討していきたいと考えます。

−初任者懇談会開かれる−

 平成15年度の初任者懇談会が5月28日(水曜日)の午後から、以下のスケジュールと内容によって開催されました。

<初任者懇談会スケジュールと内容>
時 間研 修 内 容担当者
13:00〜13:10開会の辞:オリエンテーションWG代表
13:10〜13:40学部の現状と課題学部長
13:40〜14:00公務員の服務と倫理、職場における
セクシャルハラスメント
人事課長
14:00〜14:20外部資金、科研費等国際研究協力課長
14:20〜14:50各種委員会の概要(入試・教務)
FDの現状と課題、授業評価制度
入試委員長、教務委員長
WG委員
14:50〜15:50キャンパス散策(附属学校園)
15:50〜16:50大学のこれから学長
16:50閉会の辞WG代表

 初任者懇談会は、大学に初めて着任された山梨大学教育人間科学部の教官を対象にして、本学の現状や課題、職務内容等の理解を深めることで本学、本学部に慣れ親しみ、研究・教育、委員会等の仕事がすみやかに円滑に進められることを目的にして開催されています。昨年から、FD検討ワーキンググループが本懇談会開催のお手伝いをさせていただいております。

 本年度の懇談会は、対象となった初任者の方々全員に参加していただき、吉田学長、井上学部長から本学部の沿革、現状、課題、将来の展望・構想などが語られたのをはじめ、大堀人事課長、縣国際研究協力課長からは具体的な資料を基に公務員の服務、科研費等に関する内容が説明されました。また、入試・教務委員長には、それぞれの委員会の業務内容や心構えなどをお話しいただきました。

 いずれも、それぞれの立場から有益なお話を頂戴し、参加者からも適宜質問や意見が出るなど、和やかな雰囲気の中で有意義な懇談会となりました。

 また、途中でキャンパス散策として、志田庶務係長の案内で1時間ほど附属学校園を一巡りしました。このような機会がなければ来ることはないであろう場所や施設を紹介され、同行した委員も初任者の気分で散策を楽しみました。附属幼稚園では、園長をはじめ教職員の皆様に歓迎を受ける一幕もあり、予定時間を忘れるほどでした。

 大学や学部の課題、今後の方向性、細々とした服務、仕事内容などについて、日頃、このような話し合いを持つことはめったにないだけに、貴重な時間を過ごすことができたと、素直に喜びたいと思います。

 今回の懇談会を振り返って、次回の参考のために検討課題を記しておきます。

  • 本学、本学部の実情を知る上で有意義な内容だけに、参加者の対象を初任者だけでなく、他大学から本学に着任した方にも広げたらどうか。
  • 懇談内容の時間配分が短く感じられたので、時間枠を拡大したらどうか。

 いたずらに規模を拡大することは、参加者にも担当者にも負担にはなりますが、本懇談会の意義を考えると検討する意味はあると思います。

 最後になりましたが、長時間にわたって熱心に参加していただいた初任者の方々には、大変お疲れさまでした。また、お話下さった方々には、お忙しい中、ありがとうございました。事前に解説や資料の準備をしていただいたにもかかわらず、十分な時間を組むことができず誠に申し訳なく存じます。お礼とお詫びを申し上げます。                     

(M)

 初任者懇談会の最後に,参加していただいた三名の方々から次のような感想をいただきました。学部FDの今後に生かしていきたいと思います。

小島千か教官:学部や大学の様々なことについて,コンパクトに話していただいて良かったです。これから考えるべきこと,自分が解決していくべき課題を示してもらえたような気がします。自分の仕事を,他領域の方とコラボレーションしたり,発展させていく期待が持てました。

山下和之教官:着任して数か月経ちました。この間,よく見えていなかったことが,今日の会で非常によく見えるようになりました。自分が動きやすくなった,という感じです。学部や大学の将来については,いろいろな噂を聞くたび,不安に思っていましたが,学長,学部長から直接お話を伺うことができ,将来が見えてきました。初任者に限らず,小グループの懇談会が時々あると大学がまとまっていくと思います。FDワークを大きくしたいと思いました。

長谷川千秋教官:大学という組織の一員であるものの、その現状について、着任後日の浅い者にとっては分かりづらいものです。今回、そのような時間をつくっていただいて本当に良かったと思います。貴重なお話だっただけに、もう少しゆっくりとお話を聞き、またこちらからも質問することができると良かったとも思います。




京都大学主催 第2回大学教育研究集会見聞記

大友 敏明

 3月15日京都大学で教育研究集会が開かれた。今回報告するのは、その見聞記である。この教育研究集会は、京大教員のFD(ファカルティ・ディベロップメント)の実施報告が中心であるが、それにとどまらず他大学からの報告を混ぜて行うという一種の学会形式をとっている。集会には、日本全国から約500人も集まった。法人化を控えて研究・教育評価制度のあり方をどこの大学でも模索しているが、FDもこうした状況を受けて一種のブームになっている感じであった。大勢の人数が集まるのは、どこの大学も他大学をまねて一応はFDをスタートさせてはみたが、どこもうまくいっていないのであろう。うまくいっていないから、何か参考になるものはないかと大勢の人が集まってくるのである。しかし集会そのものは、物見遊山的なものではなく、FDの現状と問題点、今後の改革の方向性を真剣に考える討論の場であった。

 昨今、大学の高等教育のなかでFDの必要性や重要性が叫ばれながら、どこの大学も実のところFDが機能していないのは本当のことである。FDはなぜうまく機能しないのか。幾人かの教員はこの問いに対してこう答えていた。FD(ここでは公開授業と授業検討会をさす)がうまくいっていないのは大学の教員が教育能力を評価されることに慣れていないからである。大学の教員は研究を批判されると反論するが、教育能力を批判されると、反論する前に感情的反発のほうが先に来るから、そうしたことには関わりをもちたくないのだ。いまはそうした教員間の不信感に触れずにFDを進めているのが実状である、と。こうした意見はFDが機能していない一面を指摘している。

 教育学部の教員は教育学部の出身者だけではなく、文学部、法学部、経済学部、理学部などの出身者からなる複合学部である。ましてや現今のFDは文学部や法学部にFDを導入しようという動きであるから、教授法とは無関係に生きてきた大学の教員が戸惑うのも無理もない。しかし高等教育の見直しや改革は、わが国だけではなく、欧米の大学においても急速かつ大規模に進行している。大学が社会に対して責任を負い、教育の質に対して責任を取るのは当たり前のことであるが、そのことがこれまでは必ずしも十分保証されてこなかったという反省が大学に教育改革を促している理由のひとつである。その結果、「学生による授業評価」の導入や厳格な成績評価システムを作ろうということになってはきたが、こうした一連の改革が教員の自発的かつ主体的な動機から発生しているのではなく、総じて上からの改革によって実施されていることから、それが教員自身のFDに対する心理的な抵抗感を増幅させていることも否めない事実なのである。「学生による授業評価」は、いわば授業に対する結果である。問題は、その結果をどのように教員や学生にフィードバックし本来の授業改善に結びつけていくのか、その点の道筋が必ずしも明らかではないのである。教員自身が「学生による授業評価」をみて自発的かつ主体的に自己の授業を客観化し改善することは悪いことではない。「授業評価」の意義もまずはそこにある。しかし現状ではその客観化することが教員個人に委ねられているだけで組織的に行われているわけではない。大学での教育現場の改善を教員の個人的な努力や熱意に依存するだけでは、本当の意味での教育の質の改善にはつながらないというのが大方の見方なのである。

 では、どうしたらFDを前進させることができるだろうか。それは学部のなかにコミュニティを形成することであると、これも幾人かの教員が異口同音に答えていた。ここでいうコミュニティとは何か。それは一言でいえば、教員同士の信頼関係に裏打ちされた社会である。信頼関係が形成されていないところに、いくらFDを叫んでみてもうまくいかないというのだ。公開授業や授業検討会が授業者の授業内容をチェックするのではなく、質の良い授業をするための場と考え、授業者と観察者との間で相互に問題を共有できる場にすることが大切である。では授業者と観察者の信頼関係を作るにはどうしたらよいか。それにはFDを個人レベルの授業改善と狭くとらえるのではなく、教授個人の授業改善というレベルから進んで、教授団という集団レベル、さらには教材の共同開発やカリキュラムの組織的改善というシステム・レベルからなる学部全体の枠組みのなかでFDをとらえることが大切であるという。授業者個人が熱意と努力で教授技能を向上させることは必要であるが、それだけで十分なのではない。専門分野が比較的近い教員の間で授業について気軽にディスカッションしたり、教材を共同で開発したり、カリキュラムを社会的ニーズに適合させるように不断に改善していくなかで教員同士のコミュニティを形成していくことが結果として学部全体の教育の質の向上につながっていくというのである。

 FDは国立・私立を問わず大学の存亡を賭けた一種のブームではある。これをたんなるブームに終わらせるか、高等教育の真の意味の改革につなげていけるかは、われわれ一人一人の姿勢にかかっていることだけはまちがいないであろう。


FD WG 宮澤正明 広瀬信雄 石垣武久 大友敏明 菅沼研一 田中武夫