学部FD活動の現在・未来

広瀬 信雄

 今年度、学部FDとして開始した活動には、(1)初任者懇談会の実施、(2)授業研修会(第1回、第2回)、(3)FD INVITATIONの発行、がある。いずれも身近なところで、わずかな努力で改善できることは何か、という考えからのスタートである。

 (1)の初任教官懇談会では、大学教官のための採用時オリエンテーションの重要性、方法が確認される結果となった。(2)の授業研修会では、学生参加型の授業(宮澤正明教官)と講義型の授業(高橋英児教官)が公開され、参加者(いずれも、全教官の約一割)には非常に興味深い研修の機会となり、両先生の工夫や意図を共有することができた。これまで各教官個人に任されていた「授業のあり方」が、改めて研究余地のある課題として浮きぼりにされた。本学部の特性(多様性、教員養成機能等)を考えると、学生向けの教員指導のあり方は極めて重要な、それでいてこれまで未開拓であった分野と言えよう。(3)のFD INVITATION(1号、2号)はFD広報の役割を担い、学内外に各号300部配布されている。さらに充実が望まれる所である。

 今後も上記(1)、(2)、(3)の活動は定期的に地道に続けられなければならないが、これらのFD活動は各教官の意識改革、意欲・関心の高揚と表裏一体であるのは明白である。

 FDが特定メンバーのものではなく、学部の日常そのものになるよう期待したい。

FD・自己点検評価・外部評価の効果的連携

林 尚示

 2000年段階で、99の国立大学が自己点検評価を実施し、82の国立大学が外部評価を実施している。また、独立行政法人を所管する府省は独立行政法人評価委員会を置くこととなり、文部科学省にも独立行政法人評価委員会が設置されるなど、将来にかけて大学を取巻く評価の眼差しはより厳格なものになってきている。

 教育評価の研究では、評価には、目標に準拠した絶対評価や、集団内での順位に重点を置く集団に準拠した相対評価がある。そして、それと同時に、個人のよさ、可能性、進歩の状況を把握する個人内評価がある。個々の大学にとっても、絶対評価や相対評価と同時に、個人内評価による自助努力(self-help)の試みは教育や研究の質の向上のためにますます重要な活動となるのではないだろうか。

 特に、大学単位で、教員が教授能力をより一層向上させるために、授業の内容や方法を改善する試みを、組織的に進めることは、大学全体の教員の相互啓発と教育実践研究の活性化を促進することとなるのではないだろうか。FDの具体例としては、全国的には、新任教員研修会、教員相互の授業参観、FDセンター設置などがある。これらの中で、教育人間科学部で現在、総力を挙げて推進しているのが教員相互の授業参観である。

 FD、自己点検評価、外部評価の3種の取り組みは、目的が授業改善であったり、大学経営の体質改善であったりと具体的レベルは異なるものの、より抽象度を上げて、「大学の活力を向上させ、魅力ある大学にする」という点では共通の目標が存在する。この目標達成のために、FD、自己点検評価、外部評価を個別に独立して実施するのではなく、より大きな評価枠組みを設定した上で、三者の効果的連携を推進する時期に来ているのかもしれない。




他大学のFDの試み    第2回 ――島根大学の巻――

 今回は、島根大学教育学部を取り上げる。島根大学も平成12年度からFDへの本格的な取り組みが始まったFD新興大学である。その点ではFDを推進する上で本学部と同じ悩みや問題意識を共有している。この学部のFDの第一の特徴は、授業公開を学部全体で組織的に実施していることである。組織的にという意味は、10月から12月にかけて集中的に、しかも多数の教官が断続的に授業公開を実施しているということである。初年度の授業公開者は3名であったが、2年目には14研究室で授業公開を実施した。5倍に授業公開者がふえたのは、ひとえに学部全体でFDに対する理解が広まり、協力体制が得られた結果であろう。しかも注目すべきことに、授業公開の目的が授業方法や技術の検討だけにとどまらず、教官相互の、特に研究室単位の教育内容の連関を検討する契機にしていることである。これは比較的専門の近い教官の間であっても、互いの授業内容には感知しない、いまの学部教育のあり方を考える上で重要な視点を提供している。もちろん最初は不承不承授業公開に賛同した教官もいたであろうが、授業後の体験記を読んでみると、いずれの教官もFDの意義を強調していたことには驚かされた。第二に、初任者研修のプログラムの中に、研修の一環として、附属学校園での授業体験を織り込んでいることである。教育学部の教官としての自覚とそれに相応しい授業内容・方法を構成していただきたいという企画者の思いがこの研修に見て取ることができる。研修体験記を読むと、新任教官の側には多少の戸惑いがあったようであるが、企画者の側には教育学部の教官になるからには、教育現場に入り、現代の子供たちの様子にじかに触れることが最重要だという認識が示されていた。(島根大学教育学部「ファカルティ・ディベロップメントの企画・推進のためのプロジェクト」研究報告書より)

(O)

 FDワーキンググループ主催、第二回授業研修会が10月22日(火)。時限(13:00〜14:00)N-113教室において開催されました。今回は若手教官を代表し、学校教育講座、高橋英児先生の「現代教職論」を公開していただき、会場はほぼ受講者定員の学生(100名)と研修会参加者(10名)とで埋まりました。

 講議内容は本時と次回とにまたがり、「若者の文化を考えよう」と題して講議全体を通じて締め括りとなる「よい教師とは」にいたる教員資質形成のための基礎要素の一部を取り上げたものでした。他に、「いじめについて」「暴力について」「愛は教えられるか」「体罰はしていいのか」「教育の中の希望とは」等々の内容で構成されています。講議に先立ち、前回の講議に対する受講者の感想と教師側の補足が『先生の通信簿』(仮題)と題したB5判8ページにも及ぶ受講者のありのままの言葉で記された内容のレジメが配付されました。受講者が講議に参加している実感を持つことと、授業者の講議に対する熱意が伝わる役割を果たしていたと思われます。

 講議は前回の内容の流れから思春期の「自分くずし、自分作り」の復習から行われました。他人とのかかわりで仮面をかぶったもう一人の自分を作り出す行為はさらなる自己発展のために、自己の本質を残した新たな自分を作る行為であること。また、親との反抗は素直にあるがままの自分を受け止める余裕が生まれた時、親の価値観を受継いていることにはじめて気が付くこと等が、自分とはなにかとの問いに自己を見つめ直す過程で生じる出来事として、授業者の受講者と一世代前の体験紹介などを交え、目線を同じくする配慮の中、歯切れのいい口調で紹介されていました。

 本時後半は「若者文化を考えよう」のテーマに移行し、生徒同士、教師等との教育における人間関係を若者の文化の視点を通じ考えて見ようとするものでした。題材として現代の若者文化を象徴する携帯電話で生じ育まれる人間関係を取り上げ、あらかじめ配付されていたアンケートに電話の普及状況、使用頻度、必要機能順等の項目に記入後、挙手による集計から受講者の現況確認と、講議のテーマに対する関心を高める工夫がなされていました。アンケート調査による導入後は具体的問題提起として45分程のNHK番組『ベル友ム 12文字の青春』(96.11.3放映)がビデオ投影されました。互いに面識のない同世代の男女が携帯電話を通じ本音を語り合い、生きがいや恋愛感情までに発展するそれぞれの男女2人のケースを距離をおいたインタビューと密着した取材が共感と違和感を漂わせ紹介されていたものでした。登場した人物たちの時代は多少昔になっていましたが、ポケベル、携帯電話の創世記に関わった若者ゆえに象徴的にも感じられ、当時の若者と価値感を共にし、現在彼等と世代を同じくする受講生たちの人間関係を考える格好の教材であったと思われます。

 本時は時間の関係から問題提起で区切りをつけることとなりましたが、次回はビデオの主な登場人物の言葉や行動から読み取れる心の内側にあるものを探り、若者の人間関係を浮き彫りにすることが展開されるとのことでした。参観させて頂いた本時は「よい教師とは」の根幹テーマに結びつく深く広がりのある構成を持ち、周到に準備された展開がなされ、次週へと続く内容に興味を抱きながら終えた授業研修でした。

(S)

授業研修会 授業実践を終えて

学校教育講座  高橋英児

 今回の授業研修会では、私が担当している教職専門科目「現代教職論」を見ていただいた。この授業では、学部1年生を主な対象としている。この授業では、学生が主体的に参加する授業となるようにこれまでいくつか工夫をしてきた。

 一つは、学生に毎回授業の感想や意見・疑問を書いてもらい、それを翌週まとめて通信(「先生の通信簿」)として配布することである。この通信では、肯定的なものから否定的なものまで出来る限り多様な意見を載せるように努めている。これは、学生たちの多様な意見や疑問を自分の授業づくりに反映させたり、なかなか授業の中で発言できない学生たちに自分とは違う様々な意見があることを知ってもらうことをねらっている。この通信は、授業の中ではなかなかできない学生達の意見交流の場を保障することができると同時に、私一人が伝える以上の内容を含んだ重要な授業の教材になっている。

 もう一つは、具体的な身近な素材から考えるというものである。今回見ていただいた授業では、携帯電話・メールといった若者文化から私たちのコミュニケーションや人間関係を考えるものであった。授業では、常に子どものことを語るようで、大人のことを語るように努めている。そうすることで、子どもたちと自分たちのつながりが見え、子どもの問題をより一層深く考えることにつながると考えているからである。

 今回、多くの先生方に参観していただき、示唆に富んだ意見をたくさんいただけたことを嬉しく思う。私は研究のフィールドのひとつに授業研究があるので、普段は授業を見る側に立つことが多いがその逆は全くなかった。しかし、今回、このように客観的な視点で見ていただくことで、自分の授業の特徴や、授業計画や授業の流れ・進め方、自分の語りなど無意識のうちに自分が行っているものなどを改めて意識的に見つめ直す機会を頂いたように思う。また、同時にさらなる課題も見えてきて、惰性的になりがちな自分の実践にたくさんの刺激と展望を頂いたように思う。FDのWGの委員の先生方には、貴重な経験をさせていただき、心から感謝したいと思う。




授業後のミーティング報告

 高橋先生の熱意あふれる授業後、附属総合教育実践センター長の原田先生をお迎えして、ミーティングが開かれた。授業者の授業の経緯、本時のテーマ・内容・評価方法等が具体的に報告された後に協議に入った。協議では、参加者から次のような感想、意見が寄せられた。

○堂々としており、授業の進め方がスピーディでテンポがよく、授業に集中できる。○若さと情熱にあふれた授業で、学生から親しみを感じられるのではないか。○ビデオ教材が効果的に用いられて授業が展開されており、新鮮であった。教科の違いで授業の進め方は異なるものの、今後の参考になった。○時間の関係もあっただろうが、本時のまとめがほしかったように思う。○「現代教職論」という科目名から、かたい講義内容と想像していたが、「講義」というより興味あふれる「授業」といった内容で驚き、興味深かった。○授業者の若い頃の経験が語られ、受講者の心をとらえて興味・関心を引きだしながら授業を展開している点、感心した。○授業の準備の緻密さに感心した。特に、資料の作成は大変な労力だと思う。

 意見や感想が出るたびに授業者からコメントがあり、本時の計画、意図、方法などがさらに明確になった。なお、協議での話題は、若者の文化論や格調の高い授業・講義とはどういうものかなど多方面に及び、和気藹々と語り合うことができたことも大きな収獲であった。

(M)


H14年度  FDメモリー  (11月まで)

 5.29(水) 初任者懇談会
 7. 5(金) 授業研修会 第1回、『国語表現』(宮澤正明教官)
 7.12(金) FD INVITATION 創刊号 発行
10.22(火) 授業研修会 第2回、『現代教職論』(高橋英児教官)
11.15(金) FD INVITATION 第2号 発行



FD WG 広瀬信雄 宮澤正明 石垣武久 大友敏明 菅沼研一