教育人間科学部とFD

学部長  井上 範夫

 国立大学が平成16年度から法人という設置形態となり、その運営の仕組みも変える予定である等、今、(国立)大学は一つの大きな転換期に差し掛かっているように思われます。大学が何よりも先ず学問を探求し、それを次世代に伝えてゆくことを使命としていることは言う迄もありません。けれどもまた大学が社会の中にあって、社会と協調しながら歩んでいかなければならないことも確かです。十八歳人口の減少、生涯学習社会、ポスト産業化社会、グローバリゼーション、etc. 大学を取り巻く社会の情勢は大きく変化し、それに対応して大学は社会に対しどのような役割を担うべきか、ということが改めて問われています。

 近年、ファカルティ・ディベロップメント(FD)ということが大学間で盛んに言われるようになりました。これは、社会の構造的変化に伴って青年の物の見方、人生観、職業観、関心の対象、等々が大きく変容してきたことから、従来の大学の教育の仕方に対しても反省が求められていることを意味しています。かつてとはライフ・スタイルも、教養の種類も、関心事も異なった学生達を目まぐるしく変わっていく社会に送り出すためにどのような教育を行うべきであるのか、彼らの社会人としての自立をどのように助けてゆくべきか、大学全体として考える必要があります。私達教育人間科学部も、こうした情況の中でカリキュラム改善に取り組むとともに、教育方法を向上させるべくFD検討ワーキング・グループを組織し、この委員会を中心に学部のFDを推進してゆこうとしています。学部の皆さんの御理解と御協力をお願いする次第です。

FD Invitation発刊にあたって

広瀬 信雄

 FD(Faculty Development)やSD(Staff Development)ということばがきかれるようになって久しい。英語圏の概念は世界中に伝えられやすいのであろうか、それとも日本がとりわけ米英の動きに敏感なのであろうか。いずれにせよ、日本の大学教育事情にもここ十年ほどの間に影響を与えることになったのは周知の通りである。日本では、資質向上を意欲変容ととらえ、瞑想に代表される修行つまり個人の努力の問題=自己研鑽、あるいは自己練磨として自ら黙々と努力する姿を尊重してきたように思う。だが、FDとは、例えば大学という組織で、それを担うプロフェッショナルが継続的に学習をしていかなければならない、という意味のようである。個人の「悟り」では不十分というわけだろう。

 ところで、資質向上を組織として実行するという意図が、さまざまな背景事情や改革主義、管理主義と結びついてトップダウン方式で行なわれたのが最近までの日本のFDであろう。 今年度より井上範夫学部長の強い願いによって、上から下へのFDではなく、下から上へ向かうようなFDの方法はないものかと考える本ワーキング・グループが活動を開始した。見わたしてみれば、「積極的」にFD関連活動をしている大学や、刊行物は多い。その意味でけっして本学部は、先進的とは言えないだろう。しかし、体裁は立派でなくても、自らの手でつくりあげる、言わば日本的・自主研鑚的な手作りのFDもあるかもしれないとグループは考え、さまざまな提案を行っていくことにした。派手なイベントもなく、はなやかな刊行物もないが、日々、足元を見つめ、大学教育のあり方を見つめていく、そのようなFDを志向しようとするものである。その一環として、ささやかなFD Invitationを発刊することにした。学部FDが多様な中で和をつくることに役立つならば喜びである。




初任者懇談会開かれる!

 平成14年5月29日(水)に下記の要領で本学部初めての初任者懇談会が開かれた。平成13・14年度の初任者である6名が参加された。出席者は、学長とじかに話せてよかった、事務の所在がどこにあるかがわかったなど、この懇談会に好意的な感想を寄せてくれた。

時 間研 修 内 容担当者
13:00〜13:10オリエンテーションWG代表
13:10〜13:40大学の現状と課題学長
13:40〜14:10学部の現状と課題学部長
14:10〜14:40大学事務の概要:共済組合、教務事務、公務員の服務と倫理、職場におけるセクシャルハラスメント事務長
14:40〜15:40各種委員会の課題(教務・入試・実習・就職)
教育改善制度の現状と課題:授業評価制度、討論
WG委員
15:45閉会の辞WG代表
(O)

授業評価とFD

林 尚示

 ファカルティ・ディベロップメントは教員が授業の内容や方法の改善向上を目指す組織的な活動のことである。この活動は多様な活動内容で構成されるが、現在の我が国で主流となっている活動内容は、@新任教員研修会(2000年度は116大学で実施)、A教員相互の授業参観(2000年度は73大学で実施)、Bファカルティ・ディベロップメント・センター等の設置(2000年度は46大学で実施)である。今回、山梨大学教育人間学部で開催された「授業研修会」はA教員相互の授業参観に相当する。 近年、授業の質を高めるために学生による授業評価を導入している大学が増加しつつある(1996年度222大学、1998年度334大学、2000年度451大学)。この学生による授業評価の観点には全国的共通性がある。この評価の観点を教員相互の授業参観でも有効活用することはできないだろうか。具体的な評価の観点は、授業のわかりやすさ、話し方、黒板・ビデオ・OHP等の使い方、テキスト・配布資料の適切さ、授業の速度、質問や発言への対応状況、授業の準備状況、授業の体系性、教育施設・整備などである。このような評価の観点を明確にした目標準拠型授業評価を自由記述型授業評価と併用して多面的な視点から授業の質を高める工夫を継続することが、魅力ある新「山梨大学」を創造するためには効果的であろう。
(参照 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/13/12/011224b.htm




他大学のFD    第1回 ――長崎大学の巻――

 FDの先行大学の紹介例として、今回は長崎大学を取り上げる。長崎大学は、8学部、教官数664名からなる総合大学である。4年前から学長の指揮のもとで本格的にFDへの取り組みが始まり、平成14年度には早くも大学教育機能開発センターの設置が決まったとのことである。

 長崎大学のFDで特徴的なことは、ひとつは「教養教育の再構築」を掲げ、「教養セミナー」を設けたことであり、もうひとつは授業の継続的改善を図るために平成12年度よりFD研修会を定期的に開いていることである。「教養セミナー」は、少人数教育を充実する目的で、全学部で実施し、1540名の入学者を10人程度のグループに分け、160クラスで課題探求型のゼミを行なうというものである。教官は大変だけれど、学生に主体的な学習をさせるための試みである。また、授業改善の定期的な研修は、初任者だけではなく現任者にも合宿形式を含めて毎年開かれている。参加者は年度によってバラツキがあるようだが、少なくない教官がFDに関心があることを示している。

 最後に、第3回長崎大学ファカルティ・ディベロップメント大会の質疑応答のなかで、教官の次の言葉が印象的であったことを付記しておきたい。「良い授業とは何なのかということが問題だと思います。先生によりますと黒板に一つも文字を書かない、それでも学生はそのときに何かを考えている。黒板にはたくさん書く、OHPなどを使用していろんな資料を提供しても学生たちは理解したかどうかわからない。・・・学生にアンケートを取って自由記述を書かせますと、『この先生は私たちが理解しているかどうかということを完全に無視した形で授業を進める。しかも専門用語が多く、さっさと帰る。これはどういうことか。』」と。FDが目指すものは、結局良い授業は何なのかということに突き当たる。試行錯誤を繰り返しながら、自分の授業を見つめなおすことがFDの第一歩かもしれない。

(O)

 FDワーキンググループ主催、第一回授業研修会が7月5日午後1時よりK-228教室において開催された。今回は学生参加型として予てより評判の高い宮澤正明先生(国語教育)開講の共通科目、「国語表現」を公開して頂き、授業後、ミーティングを特別会議室において林 尚示先生をコメンテーターとしてお迎えして開かれた。当日は気温30度を越す陽気で、会場はほぼ受講者定員の学生(152名)で埋まり、更に研修会参加者(16名)が加わり、人いきれの中での開講となった。

 本時の授業内容の二つのうち、一つは学生の作成による課題問題(本時は誤字訂正問題)をプリントで提示し、解答後、受講生同士の検討、問題製作者による解答、解説が行われた。通常では実践に役立つ、受講生の興味に合わせた問題が作られているが、今回はパソコン入力で間違い易い漢字を取り上げ、受講生自身の工夫が授業への参加意欲を盛り上げていることが見て取れた。その後のまとめ役としての授業者からの解答と発表の仕方への指摘が和やかな雰囲気の中でなされていた。

 二つ目の課題は授業者作成の「敬語の使い方」が問題として提示され、上下の関係や電話の応対の仕方が取り上げられていた。解答後、受講生をグループ分けし、それぞれから発表者を教壇上に誘い、発表者は各役柄の名を記した紙を胸に貼り、場の雰囲気、会話の流れから想定された解答が自然な形で聞き取ることができた。のびのびした発表の場での丁寧な指導が印象的であった。また、机間巡視を含め、受講者との臨機応変な対応なども新鮮さを作り出してもいるかと想像される。

 授業後のミーティングは参加者10名となったが学部長の挨拶の後、授業者の授業の経緯、本時の報告、今後の抱負等が報告された。その後、コメンテーターからFDの意義、授業内容への指摘、感想が述べられ、参加者からは本時を通じて得られた内容、主に学生の主体性を引き出す授業の準備を含めた工夫や自身の授業の実状、反省点などがそれぞれに話された。最後に今後の若い先生方の新しい取り組みの紹介と研修会への参加に対する期待に内容は及び、締め括られた。

(S)



授業研修会 授業実践を終えて

国語教育講座 宮澤正明

 今回の授業研修会で実践した科目(共通科目:主題別科目「国語表現」)を担当して、7年目になる。その間、授業内容や授業方法については、受講生の意見や、過去の学生による授業評価を参考にしながら改善に努めてきた。しかし、これは自己流の評価による改善であって、今後の授業の進め方に対する不安をぬぐい去るだけの説得力を持つものではなかった。

 7月5日、名ばかりの学生参加型授業の実践ではあったが、多くの先生方に参観していただき、示唆に富んだ意見をたくさん頂戴した。また、授業後に開催した協議会でも、授業の感想や意見をはじめ、授業評価の観点を示していただいたことで、今後の改善項目が具体的に見えてきた。

 FDワーキングのメンバーの一人として、また、行きがかり上今回の大役を仰せつかったが、その責を果たすことはできなかったものの、個人的には多くの収穫があったことは確かである。もっと早い時期に公開して意見をいただいていたならば、不安や悩みを一人で抱え込まなくても済んだであろうにと痛感した。貴重な体験をさせていただき、心から感謝したい。




FD WG 広瀬信雄 宮澤正明 石垣武久 大友敏明 菅沼研一